車載ヒューマンマシン
インターフェースの進化

はじめに

カーナビゲーションシステムは、ディスプレイの大型化や高画質化により、情報の視認性、一覧性が向上しました。その結果、運転者は多くの情報を入手することが可能となりました。そしてホームユースと同じくモビリティユースにおいても、パーソナライズされたさまざまなサービスがシームレスに提供され始めています。モビリティ領域とホーム領域のサービスの融合が進むにつれ、ユーザーが受け取る情報は飛躍的に増加します。行動を制限されるドライバーが、増え続ける様々な情報すべてを理解・判断し、操作・処理することは、ディスプレイの進歩だけでは解決することができず、安心・安全の点で課題が発生します。この課題を解決するため、運転者や状況に応じて運転支援を行うアダプティブ(適応型)の車載ヒューマンマシンインターフェース(HMI)への進化が重要になります。
今後はユーザーの安心・安全欲求を満たしながら、より高次の欲求に応える「未来の移動体験」が求められます。「未来の移動体験」の創出は、車載HMIの進化によるプロダクト、サービスの進化により実現されます。

入出力系の進歩

入力系はドライバーがタッチパネルやボタンの操作をして、ドライバーの伝えたい動作を車載機に伝えます。広く用いられているタッチパネルやボタンは、タッチする箇所を視認する必要があり、ドライバーの前方への注意が散漫になる課題があります。課題改善のため、ハンドルリモコンによる操作やハプティックス(触覚フィードバック)を用いた画面タッチボタンなどの改良が行われています。さらに近年、音声認識技術の進歩と機器間無線通信を用いたスマートフォンとの連携による音声入力が、視認動作やタッチ操作が不要な簡便なUIとして活用が広がっています。

出力系は、車載機のディスプレイやマルチインフォメーションディスプレイなどグラフィックユーザーインターフェース(GUI)が一覧性の高さから情報伝達手段として広く用いられてきています。ここでも情報認識のために視線移動が必要といった課題があります。改善のために、視線移動や焦点調整の負荷が少ないヘッドアップディスプレイや視覚に依存しない音声通知(音声UI)の併用などさまざまな改良が行われています。
今後も入力系、出力系ともに更なる視覚負荷の低減を目的とした新たな車載デバイスや性能・機能向上により車載HMIが進化します。

車載HMIの進化

車載HMIシステムは、「測る」、「解る」、そして「伝える」機能で構成されています。
「測る」であるセンシングは、機器間無線通信による複数IoTデバイスの連携「コネクテッド」により形式の異なる多種類のデータを同時取得するマルチモーダルセンシングに進化します。マルチモーダルセンシングにより、スマートフォンやスマートウォッチなどで取得したパーソナルデータの活用も可能になります。一方、センサデータの増加に伴い機器間やクラウドとエッジ間のデータ通信量も増加することから、通信負荷によるデータ転送の遅延といった課題が発生します。リアルタイムサービスを行うためにはセンサ搭載機器側でデータ解析するエッジ解析が有効であり、エッジAI(Artificial Intelligence)の活用が進みます。

「解る」であるデータ解析は、マルチモーダルセンシングで取得された車内外の多種類のデータ、各種位置情報、およびパーソナライズされた運転者情報などを複合解析するマルチモーダルデータ解析に進化します。一種類のデータでは解らなかった運転状況も、多種多様なデータをマルチモーダルデータ解析により推定することが可能となります。更にデータ解析技術はAI解析技術を活用して推定から予測へと進化することで、ユーザーに最適な情報を最適なタイミングで提供できるようになります。

「伝える」であるUIでは、従来のディスプレイを用いたGUIや車室内での簡便な情報伝達を可能した音声UIが進展してきました。今後はマルチモーダルデータ解析による詳細な運転状況の推定や予測の結果に応じて情報を制御し、ひとりひとりのユーザーに最適なUIに切替えるマルチモーダルUIへと進化します。機器間通信を用いた機能の最適レイアウトとともに複数IoTデバイスの連携を活用した新たなUIの登場も期待されます。

車載HMIのシステムにおいて、各機能の高度化とともに今後重要となるのが情報制御です。情報コミュニケーション手段である車載HMIは、ユーザーの情報認知や機器操作にともなう負荷の低減のみならず、情報自体を判断する負荷も減らす簡便なシステムに進化することが重要です。進化した車載HMIシステムは、ユーザーの状況に応じて適切に情報を制御するアダプティブ車載HMIです。車載HMIは、「測る」と「解る」機能により運転者や状況を正確に認識・把握し、「伝える」機能によりユーザーに情報を伝えた結果を再び測る「フィードバックループ」を形成することで、さらに有機的に機能するアダプティブ車載HMIへと進化していきます。

車載HMIの進化

これからの車載HMI

車載HMIは、車移動における安全性、快適性と利便性を追求し、技術の進展、新たなデバイスや機能向上により進化し続けます。車載機同士やパーソナルIoTデバイスとの「コネクテッド」、各機能の「オプティマイズド」、多種多様なデータを「測る」、「解る」、「伝える」、そして「フィードバック」するアダプティブ車載HMIへと進化します。パイオニアは、アダプティブ車載HMIシステムを実現し、ユーザー状況の推定と予測からパーソナライズした最適な情報を最適なタイミングで提供していきます。車載HMIの進化を追求、実現し、安心・安全、快適かつスマートな未来の移動体験を創出していきます。