回顧と前進

第14話 好きこそ物の上手なれ-1

『松本望著「回顧と前進」』

BGMからカーステレオへ ~ 常に“新しい流れ”への挑戦 ~

私は好奇心の強い男ですから、何か面白そうなものがあると、なんにでも飛びつき試してみたくなるのです。その中で将来、パイオニアの商品として成長していきそうなものは社内に持ち込み、そうでないものは社外でやらせるようにしています。

エンドレスのテープレコーダーは社内で商品化したうちの一つでした。

この話は、昭和38年(1963)頃、東京理科大学の伴 五紀教授が持ってこられたもので、「シカゴのコンレーという会社のBGM用のプレーヤーのサンプルが手に入ったのだが、おたくで作ってみないか」というのです。

8ミリテープ使用のエンドレスタイプです。幅22センチメートル、奥行き25センチメートルという大型のカートリッジで、スピードは9.5センチメートルで2時間ものです。

ピンチローラーは機械のほうにあり、カートリッジを差し込みますと、自動的にホールドする仕組みになっています。このカートリッジのことを「フィデリーパック」と言っておりました。

私としてはその時分まだ“回転もの”には自信を持てなかったのですが、当社の将来のことを考え、とにかくやってみることにしたのです。


ハイパックの技術を使用した幼児用プレーヤー

さっそく、サンプル通りに試作品をつくりコンレー社に持ち込みましたところ、検査にも合格し発注を受けるばかりになりました。

ところが、肝腎のコンレー社がテレプロムター社という会社に吸収されてしまったのです。

このため、テレプロムター社まで出かけて行き、当初の計画通り何とか発注してもらえないかと交渉してみましたが、エンドレステープレコーダーの事業は継続しないことになったというのです。しかし、せっかく製品化のメドもついたことでもありましたから、私は販路を国内に求めることにしました。

ちょうどこの頃、わが国にも“BGM”が採り入れられつつあったのです。

外人経営の「日本音楽配給」などという会社のほか、松村 博一さんが設立した「東洋BGM」が全国にフランチャイズを設けて大変に発展しつつありました。

この「東洋BGM」に使用してもらうことになったのです。ここには、相当量納入させてもらいましたので、“回転もの”に対する自信もどうやらついてきました。

そこで、この技術を応用してカーステレオ分野にも進出することを考えたのです。

昭和35~36年(1960~61)頃から、米国ではすでにフィデリーパック式の4トラック・カーステレオが発売されていました。

米国での人気は高く、やがてわが国にも広く普及していくに違いない、という明るい見通しもありましたから、当社でもいち早く商品化に踏み切ることにしたのです。米国向けにロスアンゼルスの「クレーグ社」を代理店にして、輸出を始めたのは昭和38年(1963)の暮のことでした。

昭和41年6月には国内でも同じフィデリーパック式4トラックもので販売を開始しています。

ところが、そのうち米国リヤージェット社が、ピンチローラー内蔵の8トラックカートリッジを発表し、この方式によるカーステレオをモトローラ社が売り出してきたのです。

4トラックよりは8トラックのほうが、音楽もたくさん入りますから、国内外の需要とも当然、このほうに移っていきました。

このため、当社では、一時4トラック・8トラック兼用のカーステレオをつくったこともありましたが、昭和42~43年(1967~68)頃には8トラのリヤータイプに切り替えています。

これを契機にして、当社のカーステレオ事業も軌道に乗っていくわけです。

このリヤー社とは、米国内において特許問題で争ったことがあります。

昭和44年から47年にかけてのことですが、結局この問題は、リヤー社の特許がわが国で認められることになってしまいましたので、米国内での係争も無意味になり取り下げてしまったのです。この件では、私に同調して下さった同業者の方々に、ご迷惑をおかけする結果になってしまい遺憾にたえません。

カーステレオといえば「ハイパック」のことがありあます。

これもエンドレスのカートリッジなのですが、リヤー型に比べると大きさが約四分の一ですからプレーヤーも小さくすみいろいろと長所があったのです。

とはいっても、音楽ソースとの関係もあり、当社だけで始めても一般に広く普及させることは困難だと思いました。そこで関係各社に働きかけて、昭和46年(1971)4月「ハイパック協議会」を発足させたのです。

参加メーカーはハードで6社、ソフト関係では4社の方々に参加していただきましたが、結局は“新しい流れ”をつくるまでには至らず失敗に終りました。

死んだわが子のよいところだけが思い出されるのと同様、あの時こうもすればよかったとか、あそこをああすればよかったのにと思ったりもしています。

何べんも繰り返すようですが、よいものをつくっても“売る”ということは本当にむずかしいものです。しかし、この「ハイパック」は“幼児用プレーヤー”として、その利点が生かされ、ポンキーという商品名でいま全国各地でお子さんたちの楽しい“音楽遊び”のお相手を務めていることは慰めになっています。